君のことは一ミリたりとも【完】
「俺に会いたい?」
嘘だ、会いたいのは俺の方だ。
すると目の前から歩いてくる女性が目に入り、思わず口元を緩めた。
俺に気が付くと亜紀さんは吃驚した顔でスマホを持っていた手を下ろした。
「迎えに来たよ」
やっぱり会いに来て良かった。どちらともなく駆け寄り抱き締め合うと腕の中にいる彼女が宝物のように思えてきた。
こんな気持ち今までなかった。昔はあんなにも毛嫌いしていたこの人を、こんなにも愛おしく思う日が来るなんて。
昔の俺に聞かせたらどう思うだろうな。
彼女の口から告げられた「好き」という言葉に堪らなくなって、必死に動かしていたその口を唇で塞いだ。
涙のしょっぱい味がして、ゆっくりと離すと彼女の顔が真っ赤に染まっているのを見てはっと声を出して笑う。
「亜紀さんツンデレすぎ」
「あ? なんか言った?」
「ごめん、前言撤回」
そんな可愛くない声出さないでよ。俺は肩を竦ませると亜紀さんが「ていうか」と、
「本当になんでいるの。仕事はどうしたの」
「仕事終わりに来てるから大丈夫」
「それでも事前に連絡とか」
「してたら亜紀さん怒ったでしょ?」