君のことは一ミリたりとも【完】
この男、自分がしでかしたことがどれだけ重大なことなのか自覚がないのだろうか。
「とにかく、お母さんからは後で予定が合わなかったって私から言っておくから」
「ふーん、いいの? まだ生瀬と付き合ってるって思われてるんでしょ?」
「っ……」
意味深に微笑む彼の表情が癇に障り、「なに?」と出た声は思ったよりも低かった。
「盗み聞きしてたの?」
「何となく離してる内容で察するよ。それで、生瀬とは別れて今は俺と付き合ってるって説明する気? お母さん悲しまない?」
「どう説明しようが私の勝手」
「あっそう、別にいいけど」
急に興味をなくした風の唐沢はタオルで自分の髪についた水滴を拭くと、
「でも前から付き合ってたのは俺だって言ったほうがお母さん、安心するんじゃない?」
「それは……」
「亜紀さんの気が楽になるんなら協力させて欲しいな」
でもそれは……、なんてこともないように笑う唐沢を見て手の中にあったスマホを強く握った。
そんなこと、私に出来るわけがないのをこの男は知っているはずなのに。
「無理、アンタに生瀬さんの代わりなんてさせられない」
「……それは、俺は生瀬には到底敵わないってこと?」
「そうじゃない。私にとって唐沢も生瀬さんも、違う人だから。もう、恋人だって一括りになんて出来ない」
「……」