君のことは一ミリたりとも【完】
昔生瀬さんに対して抱いていた気持ちも、今唐沢に対して抱いている気持ちも、全部一緒なわけではない。
好きという感情であれど、そのベクトルが違う。だからいくら親への説得だとしてもこの二人を同一視なんてしたくはなかった。
私の言葉に「そっか」と言葉を溢した唐沢は先程よりも柔らかい笑みを浮かべていた。
「嬉しいな。俺、亜紀さんにとってもうそんな大きな存在なんだな」
「は、いやそういう意味じゃなくって」
「でも安心して? 俺は別に生瀬の代わりにご両親に会おうだなんて思ってないから」
そう言った彼に私は首を傾げる。
「未来のお義父さんとお義母さんに挨拶したいだけだし」
「みっ……」
「あ、乾燥機が鳴ったね。服着てくる」
「ちょ、ちょっと!」
待って!と口にするより先にリビングを後にした唐沢に置いてけぼりの私。
今、未来のお義父さんとお義母さんって言った?
「尚更行かせられるわけないじゃない……」
その場に頭を抱えるようにしてしゃがみ込む。どう考えても思考のスピードが現実に追い付いてなさすぎるのだ。
唐沢は相変わらず私の心を乱すことに長けているようだ。