君のことは一ミリたりとも【完】
その言葉にタクシーの運転手さんが激しく咳き込んだ。なんで誤解を招くようなことしか言えないんだ、この男は。
今日のことはあのキスと共に私の記憶から抹消することにした。
キツく睨みつけても痛くも痒くもないらしく、彼は「そんなことよりさー」と、
「今日会社休みなよね、いくら熱引いたとは言え昨日倒れてんだから」
「っ……分かってる」
「嘘、行くつもりだったでしょ」
「分かったから! 休むってば!」
これでいいんでしょ!と楯突けば彼は満足そうに笑った。
なんで私が全部この男の言う通りにならなきゃいけないんだ。
「(おかしい、あの同窓会からだ。もしかしてこの男は私の疫病神なんじゃ……)」
嫌なことは全てこの男と再会してから起こっている。
全部を人のせいにはしたくはないけれど、そう思わずにはいられない。
はぁを溜息を繰り返している間に私のマンション前に着いた。
ここまでのタクシー代を払うと後部座席から降りる。
「河田さん、今度飲みに行こうよ」
「却下」
「冷たいなぁ」
「アンタが私に対して下心を持っている以上永遠に却下だから」
そう言い切ったと同時にタイミングよくタクシーのドアが閉まり、彼を乗せたタクシーは唐沢の家へと向かって走り出す。
ようやく解放された、と肩を落とすとトボトボとマンションのエントランスに向かった。