クールな社長の溺甘プロポーズ



結婚を断ってはいるけれど、それは彼自身になにか欠点や落ち度があるからというわけではない。


確かに先日のデリカシーのない言い方はムカついたけれど、こうして無茶ぶりにも応えてくれるあたり、彼は彼で本気なのだろうし。

言ってしまえば、問題は“私自身”にある。



仕事、とまた繰り返し口にする私に、大倉さんは眉ひとつ動かさず言う。



「星乃は、相当仕事が好きなんだな」

「もちろん。まだ失敗も多いし、叱られることも沢山あるけど、でもすごくやりがいを感じてる。まぁ、そのおかげで彼氏ともロクに続かずにこの歳になっちゃったんだけどさ」



自虐的に言って苦笑いをこぼす。すると、大倉さんは不意に手を伸ばし、私の頭をポンポンと撫でた。



「な、なによ」

「そんな言い方せずに、胸を張れ」



胸を……?

そんな言い方をするのが少し意外で、意味を問うように大倉さんを見た。



「自分の好きなことを仕事にできる人は多くない。その中でやりがいを見つけられるのは、すごいことだ。だから、それを優先することも仕方のないことだ」



水槽の青いライトが彼の肌を照らす。

ふたりを包む青色と、微かにBGMが流れるだけのこの場の静けさが、まるでふたりきり水の中にいるような、そんな錯覚をさせた。



そんな不思議な空気のせいだろうか。

彼の言葉はじんわりと、この心に沁みた。



仕方のない、こと……。

仕事のことや私のことを否定したりせず、肯定してくれた。

すごいことだって、褒めて受け入れてくれる。

その言葉がこんなにも嬉しく、心をあたたかくしてくれる。



……だけど、そんな綺麗ごとを口にするのは、きっと今だけ。

あの人と同じように、肯定して優しくして、どうせ裏切るんだろう。

そう思うと、やっぱり怖い。



胸の中の不安をこらえるように、膝の上で拳をぎゅっと握った。


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