星夜光、きみのメランコリー
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再び、あたしの目の前に大きな黒い波がやってきたのは、中学3年の4月のことだった。
『天香』
誰もいない美術室で、ひとり絵の具とパレットを持ち色を生み出しているあたしに声をかけてきたのは、同じ部員の3年・珊瑚(さんご)。
部員の中でも、いちばん仲が良かった女の子。
美人で、ハキハキしてて、鮮やかな絵を描くことが得意だった。
『天香、また描きに来たの?今日は部活休みの日でしょ』
花がこぼれるような笑顔で笑いかけて、あたしの隣に座った。
『本当に絵が好きね。今度は何を描いてるの』
『ううーん、何っていうか…、あたしはこうやって色を生み出してれば楽しいからなあ…』
『色を生み出す?』
…ハッとした。思わず、本音を出してしまった。今の今まで我慢していたことが、水の泡になろうとしている。
慌てて口元を押さえつけると、珊瑚は何か考えるようにわたしをじっと見た後、また笑った。
『なあに? 天香、言いたいことあるなら、最後までちゃんといいなよ』
おかしそうに笑う。その時のあたしの顔が、本当に面白かったのかもしれない。
いくら仲良くなっても、珊瑚にでさえ、あたしの話をすることはできなかった。
あたしは、美術部員の中ではしっかりと居場所があって、むしろ認められているけれど、一歩外を出たら、変な噂で覆い尽くされている人間。
あたしの、小学校で一緒だった友達とも仲が良い珊瑚には、あんまり自分のことを話すことはしたくなかったんだ。
…だから、この日もなんとか、誤魔化そうとしていたんだけれど。
『…天香は、まるで色と会話しているみたいに、色のことをよく分かってるよね』
珊瑚が、あまりにもやさしく、そう言ってくれたから。
『…え?』
『だって、そうじゃない? じゃないとこんなに生き生きした絵、なかなか描けないよう。スギサキ先生も、いつも言ってるもん』
『…』
…あたしが、今まで住んできた世界も、認めてくれるんじゃないかって。
そんな風に、思って。