星夜光、きみのメランコリー
『……っ、あ、あのね…っ』
気がついたら、彼女の手を握っていた。その日の、珊瑚の少し冷たい指先の感覚を、あたしは今でも鮮明に覚えている。
…ひんやりと、体温を奪う、温度。
『珊瑚は、あまりこーいう話、信じられないかもしれないんだけど、』
…本当は、ずっと、分かって欲しかったのかもしれない。
『色はね、生きてるの。あたしが “ 生きた絵
” を描くんじゃなくてね、えっと…色を、ちゃんと生かしてあげれば、どんな絵だって、力が湧いて…』
『…?』
『と、とにかく、色も人間と同じなの。生まれた分だけ、その色にはこころがあるの。あたしは昔から、ずっと…、その世界に住んでて…』
この時、どうして珊瑚の前で勇気が出たのかは分からない。
でも、本当はあたし、ずっと言いたかったのかもしれない。どこかで、チャンスを見つけようと、必死だったのかもしれない。
この日、指先をひんやりと冷やした珊瑚が、『言いたいことがあるなら言って』と言ってくれた。だから、あたしは珊瑚を信じた。
まるで、今まで分かってもらえなかった想いを分かってもらおうと、必死に話した。同じ美術部の彼女なら、分かってくれると思った。
色に、絵に、“ いのち ” を感じられる珊瑚なら、きっと分かってくれるって。
『…ほら、ここの…このコはね、すごく気が強くて、隣にいるコの後ろに隠れているのは嫌だって。いちばんに人に見てもらいたいって気持ちを持っていて』
『このコは恥ずかしがり屋。でも、ちゃんと周りのコたちを生かすために、自分の力を発揮してるの。このコがいないと、ほら、この色は生きてこないでしょう』
夢中になって、話していたんだと思う。
珊瑚は何も言わないで聞いていてくれた。
うんうんと、首を縦に振りながら。たまに、『へぇ』と声をあげて。
あたしの世界に、ちゃんと耳を傾けてくれる人がいるんだってことを、知った。
…この一瞬だけは、あたしはやっぱり、このちからが愛おしいとさえ思っていた。