きみだけに、この歌を歌うよ
「うん、そうしてくれるとありがたいな」
九条くんから返ってきたのは、私のことを拒絶する声。
迷惑だからやめてくれ。
そう言われたみたいで、ショックだった。
「うん。ごめんね……九条くん」
視線をゆっくりと、自分の足元へおとす。
こみ上がる涙で、視界がゆらゆらしてきた。
頬に冷たいものが一筋はしる。
そのあとを追うように、筋をいくつもの滴が伝う。
あぁ。
こんなとき、傘があってよかった。
泣き顔を隠せるから。
雨がふっていてよかった。
鼻をすすっていることが、雨音で誤魔化せるから。