君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 そのままの、ありのままの自分を受け入れ、肯定してくれるのでは無いかという欲望に似た願い。自分の奥底を見透かされ、蹂躙されたいという、昏い欲望を。

 藍の視線に囚われそうになる自分をかろうじて理性で支えて、由真は席を立った。

「彼女の事が、心配です、もしかして、体調を崩しているのかも」

「トーリが一緒ですから、問題ないかと思いますし、彼女は貴女の助けを望まないのではないでしょうか」

「彼女が望む望まないではありません。私は、ただ、自分が彼女が心配なだけです、確かめて、無粋だと本人に言われてもやむを得ませんが、気がかりを確かめたいんです」

「そうですか、では、行ってらっしゃい」

 藍は、少しの感情も表に出さない様子で、そのままその場を動かなかった。

 胸騒ぎを感じながら、由真はロビーに出た。緩嫁の姿も、トーリの姿も無い。まさか客室を一部屋一部屋確認するわけにもいかない。

 トーリはいかにも女慣れをしている様子で、とても婚活パーティに来るようなタイプには見えなかったが、さすがにパーティ中に女性をともなって客室にしけこむような事は無いだろうとも思ったし、仮にそうだとして、客室に踏み込むのは無粋極まりないだろう。

 しかし、次第に強くなってくる魔獣の気配に、由真の肌に鳥肌がたった。
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