君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 一回目の調査でいきなり本命にヒットしたのだとすればたいした引きの強さだな、と、由真は伊達男然としたトーリの姿を思い出す。

 そして、トーリと共にいた藍は、『魔獣』を積極的に生み出す活動を行っている者達、という事になるのではないだろうか。

 本来、魔獣は自然発生的に起きる。核となる人間の適性、魔獣化するだけの力を内在し、なおかつそれが爆発的に伸びる必要がある。

 日常的にそんな事が起きる事はまず無いが、ここ数ヶ月、明らかに異常な数の魔獣が発生しているのは、人為的に魔獣を産み出す為に動いいている何かがあるはずだった。

 一生の伴侶を求める、婚活という行為にともなう大きな感情の動き、打算であったり、自分自身を見つめ返すという行為は、魔獣化するきっかけになり得る。

 ……久しぶりに、恋ができるんじゃないかと思ったんだけどなあ。

 由真は不謹慎にもそんな事を考えていた。

 いや、トーリはともかく、藍については、事情を知らない立場と考えられなくは無い。

 由真の集中力が乱れたその時、魔獣から、高音域の叫びのような、悲鳴のような声があがった。耳にキンと響くその声が、晴天を貫くように天を割くと、まるで水面に石を投げ込んだ波紋のように、雲が渦巻き、暗雲が立ち込め始めた。

 ぽつ、ぽつ、と、大粒の水滴が落ちてきたかと思うと、バケツの底が抜けて、一気に水が落ちてきたようなどしゃぶりが、局地的に降り始めた。

 ゲリラ豪雨のような雨が、由真の視界を奪う。

 眼前にいたはずの魔獣が、一瞬由真の視界から消え、

 しまった! と、由真が見上げると、飛び上がった魔獣が、鋭い爪をもった腕を振り上げ、襲いかかってきた。

 由真の武器は弓、しかも雨が降っているこの状況で上空の相手を攻撃するには適さない。

 由真は、後方へ飛び、塔屋の上に立って、弓を具現化しようとした。

 その時だった。

 渦巻く雨雲を霧散させるほどの強い衝撃が周囲を覆った。

 由真は、弓を番えたまま、衝撃覇の中心に向かい、照準を合わせた。

 そこに、人影があった。全身を鎧う、深い青色の甲冑。
 ぐったりとした魔獣を片腕で抱えるようにして持っている。
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