君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
「けれど、あなたには興味があります」

 抑揚のない声で藍が言った。
 藍の表情に変化は無かった。
 けれど、その言葉は、確かに由真に向けられていた。

「私自身は結婚に興味はありませんが、あなたが伴侶を求めてあの場に来たというのであれば、私は、候補になりたいと思います、私では、あなたの夫候補にはふさわしくありませんか?」

 由真は、自分の顔が赤くなっている自覚があった。心拍数も上がっている。
 それなのに、藍の顔は、憎たらしいほどに変化が無い。

「私も、あなたに興味があります、代ヶ根さん」

 由真は、出来る限り平静を装いながら言葉を続けた。

「けど、私、あの場に伴侶を求めて言ったわけじゃないんです、……他に目的があったんです」

 藍は、表情を変えない。しかし、その瞳は真っ直ぐに由真を見続けていた。

「目的については、言えません、けれど、それでも、私への興味は変わりませんか?」

「伴侶を求めてあの場にいたのでは無い、という事と、あなた自身の性質に因果関係は無いと思います、むしろ、伴侶を求めていなくても、『あの場』があった事で、私はあなたに会う事ができました、私は、その事を幸運だと感じます」

「……ですが、『伴侶を求めて』あの場にいたのでは無いという事は、あなたには既に伴侶、ないしは、それに準じる方がいる、という事でしょうか?」

 由真に問いかけながら、やはり藍は表情を変えない。丁寧に、一つずつ、言葉を紡いでいく。

「いえ、その、なんというか、独身ですし、フリーです」

「安心しました」

 そこで、初めて、藍が相好を崩した。
 それは、本当にわずかだったが、感情の発露だった。
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