婚活女子とイケメン男子の化学反応

「大丈夫だよね?」

ビルのガラスに映った自分を見て、ひとり言を呟いた。

メイクもしっかりしたし、髪も頑張って巻いてみたし、服だって店員さんに選んでもらったものだ。

もう人の視線も怖くないし、会話だって上手くできる。

私だって幸せを掴むことはできるよね?

そんな自問自答を繰り返し、結婚相談所のドアに手をかけた時だった。

「鈴乃」と不意に後ろから名前を呼ばれた。

えっ?
驚いて振り返ると、そこにお兄ちゃんが立っていた。

「お兄ちゃん!? ど、どうして………ここに」

思わず身構える。

「結婚相談所からうちに身元確認の電話がきたんだよ。書類に実家の連絡先書いただろ?」

「あっ……」

そうだった。
まさか連絡なんていかないと思って書いてしまったのだ。

「そ、それで、何の用? 私、もうお兄ちゃんの言うことなんか聞かないよ」

プイと顔を背けると、お兄ちゃんは白い封筒を私の目の前に差し出した。

「手紙を届けに来たんだよ。半年前に鈴乃のアパートのポストに入ってたから」

その封筒には見覚えがあった。
確か葵さんが麻里奈さんに手紙を書いた時の封筒だ。

まさか、嫌がらせの「文字」でも貼り付けられているのだろうか。

ゴクリと唾を呑み込むと、お兄ちゃんがこう言った。

「鈴乃が実家に帰ってきたら、渡そうと思ってたけど、まさか結婚相談所から連絡が来るとは思わなかったよ。あの男とは別れたのか?」

「………………」

私は黙ったまま俯いた。
ほらみたことかと言われそうだ。

私は拳をギュッと握りながら目を閉じた。

「まあ、恋愛なんだから、上手くいかないこともあるよな。今度はちゃんといい相手が見つかるといいな」

「えっ?」

今のは誰が言ったんだろう。
お兄ちゃんの顔をポカンと見上げる。

「今まで悪かった。鈴乃のことを自分だけのものにしたかったんだ。ずっと苦しめてきてごめん。許してもらえるとは思ってないけど、これからは兄として鈴乃の幸せを応援したい。だから、何かあったら頼って欲しい」

「お兄ちゃん………」

「頑張れよ………鈴乃」

お兄ちゃんはにっこり笑うと、「じゃあな」と呟き、私に封筒を握らせて去って行った。

お兄ちゃん……。

ジワリと涙がこみ上げる。
苦しめられてきたことも事実だけど、彼は私の心を支えてくれた人でもあった。

ありがとう、お兄ちゃん。
血の繋がりはないけれど、彼はこの世でたった一人の私の兄だ。

滲んだ涙を手で拭いながら、私は結婚相談所の扉を開けたのだった。



「仙道様、お待ちしておりました!!」

担当のスタッフが、私を万遍の笑みで出迎える。

「では、お時間まで、もう少々お待ち下さいね」

私は個室に案内されて、お見合い相手の到着を待つことになった。

どんな人が来るんだろう。
何だか緊張で変な汗が出てきた。
だいぶ人には慣れたと思ったけれど、やっぱりドキドキしてしまう。

とりあえず、出されたお茶を口に含み、大きく深呼吸した。

ふとその時、さっき手渡された手紙が気になった。
一体何が書かれているのだろう。

バックから封筒を出すと、案の定、葵さんの名前が記されていた。

恐る恐る封を開けると、中には便箋が2枚入っていた。

1枚目の手紙に目を通すと、私への謝罪の言葉が書かれていた。

【指輪のことも、麻里奈のことも、全部二人を別れさせる為の嘘だった】
【俺が零士を好きだから】
【謝っても謝りきれない】

ショッキングな内容に頭がついていかなかった。

何これ!
どういうこと!?
全部嘘って………。

じゃあ、私は何の為に別れたの!?

それなら、どうして零士さんは約束の時間に来てくれなかったんだろう?

どうして、電話番号が変わってるの?

もう何が何だかサッパリ分からなくて。
私はパニックのまま2枚目の手紙に目を通した。

すると、更に驚愕の内容が。
あまりに衝撃的過ぎて、私は呼吸さえ上手くできなくなった。

【零士が俺を庇って車に跳ねられた】
【意識不明の重体】
【助からないかもしれない】
【桜丘中央病院】

嘘……でしょ………。

倉本さんの言葉がリフレインする。

“昼休みに会う約束をしました”
“でも、結局彼は現れませんでした”

零士さんはあの日、事故に合ってたってこと!?

意識不明の重体って!

震える手で鞄を掴み、私は椅子から立ち上がった。






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