泣けない少女
「で、答えは出たのか?」

帰ってきた夫がテーブルの前に座り問いかけてきた。私は頷くと、昼間役所から貰ってきた署名済の離婚届を静かに手渡す。

「離婚してください」

「わかった」

いともあっさり承諾する夫は、こうなる事を見越していたのだろう。自分の名前を書き、親権の話に移行する。

「優愛は私が育てますから」

「は?そんなの当たり前だろ?もし置いてくんだったら問答無用で施設に預けるわ」

……この男は何処までも腐っている。曲がりなりにも自分の子供をいとも容易く捨てるなんて。この場に優愛がいなくて良かった。

「養育費は優愛が18歳になるまでで良いですか?」

「……わかった。月3万送る」

その後の話し合いも滞りなく進み、後は明日役所に届けるだけになった。

「実家への引越しの手伝いはお願いします」

優里も車の免許は取っていたが、自身の車は持っていなかったし、医師にドクターストップをかけられているためだ。

「しょうがねえな……わかったよ」

舌打ちされながらも何とか承諾を得て、この場は丸く収まった。後は近所の人の挨拶だが……特に要らないだろう。あの人達は私の事を異常だとはぶり者にし、子供にもあの家の人には関わってはダメだと教え、その子供は優愛を今までいじめてきたのだ。無視するのは当たり前、こないだ外を歩いている時偶然耳にした時には優愛を誘って近くの森に置いてけぼりにしようと話し合いまでしていた。勿論直接親に抗議しに行ったが、うちの子がそんなことするはずないと門前払いされてしまった。そんな人達と顔を合わせるなんて吐き気がする。

「じゃあ、明日役所に届けてきます」

今日も離婚届を貰いに行くだけで汗が滲み出て手足は震え呼吸が苦しくなったが、届けないことにはどうにもならない。明日を憂鬱に思いながらその日はそのまま就寝した。
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