泣けない少女
しかしそれから日に日に悪くなる症状。優愛が3歳程に成長した時には既に外に出る事はおろか、夕飯を作ることさえ難しくなっていた。しかしどんなに辛いと嘆いても助けてくれる人は皆無だった。

「そんなだらけて寝てないで体を動かしたらどうだ!」

そう夫に怒鳴られる事も少なくない。その度に優愛は泣いてしまう。その幼い泣き声にさえ夫は当り散らす様になってしまった。

「優愛…ごめんね、ごめん…っ」

この子にだけは苦労させたくないと思っていたのに、自分がこんな風になってしまったせいで近所の子供から仲間はずれにされている事を優里は知っていた。最初は笑顔で接してきてくれたママ友も、いつの間にか自分の陰口を叩く様になった。そして彼女達は決まって子供に言うのだ。『優愛ちゃんと仲良くしちゃダメよ』と。

まだ善悪の判断ができない幼い子供は親のいう事に忠実に従う。周りの人間が『そうしろ』と言えばそうするべきだと思ってしまうのは当然のことだった。

……一層の事、自分がいなくなれば皆幸せになれるのではないか。いつしか優里の頭には常にその考えが浮かんでいた。

死にたい…こんな辛い思いをするのなら死んだ方がマシだ。追い詰められた優里はそうとしか思えなくなってしまったのだ。

そして『死』という概念に囚われた彼女は以前買った睡眠薬の入った瓶に手を伸ばした…。
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