恋し、挑みし、闘へ乙女
《――あの……折り入ってお話ししたいことが……》
「なら、電話じゃなくて直接お会いしましょう」

何の話だろうと思いながらも、乙女はいつものようにそう言っていた。

そして、「家にいらっしゃる?」と言って、ここは梅大路邸だったことを思い出す。糸子も気付いたのだろう。

《いえ、それはちょっと……》

さもあらん。婚約も整っていない今、既婚者だと言っても女性が独身男性宅を訪問したら噂が立つ。それがいくら乙女を訪ねて来たとしてもだ。スキャンダラスなことは乙女も糸子も避けたい。

《あの……私の知人が茶房を開いておりまして、そちらはいかがでしょうか? あんみつが美味しいと評判のお店でなのですが……》

あんみつ! 甘党の乙女は「はい、そこに致しましょう」と二つ返事でOKをする。

《明日の午後二時、私共の運転手がお迎えに参ります》
「あっ、それは申し訳ないわ。足はあるのでご心配なく」
《――承知致しました。店の名前は“茶房鼓”です。場所は……》

「あっ、そこ、評判のお店ですよね」と糸子の言葉を止める。

「丸太山の麓でしょう。了解しました。では明日の二時」

電話を切った後、再び乙女は思う。
いったい何の話なのだろう……と。
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