恋し、挑みし、闘へ乙女
「それも分からない。君の話には三人の怪しげな人物が登場する。その誰かだと思うがね」

「三人……」と呟きながら乙女が車を降り、綾鷹が車を閉める音と共に「永瀬蘭丸、謎の男、御前と呼ばれた男のことですよね?」と確認する。

「ああ」と綾鷹は頷き乙女の手を取ると茶房鼓の表玄関に向かって歩き出す。

「――あ……綾鷹様、手……」
「手がどうかしたのかい?」

乙女の視線が繋がれた手に向く。
指と指を絡めた恋人繋ぎというものだ。途端に乙女の頬に赤みがさす。

「デートだろ? これぐらいしないと」

乙女がいくらスキンシップに慣れたといっても、それは屋内に限ったこと。屋外でこんな風に連れ立って歩いたことなど一度もないゆえ、照れくささが先に立つ。

横目で綾鷹を見ると……ん? 彼の口元がフルフル震えている。

「もしかしたら、物凄く面白がっていません?」

「悪い!」と言ってブハッと吹き出す。

「からかいがいがあって、止められない」
「まっ!」

乙女の眉間に皺が寄る。

「どうしてそう意地悪なのですか!」
「だから、男の性だよ。好きな子ほど苛めたくなる」
「その心理、全然理解できません!」

プリプリしながら乙女が言うと、「恋人同士の小競り合いも楽しいものだ」と綾鷹が笑う。

本当、この人に何を言っても暖簾に腕押し、糠に釘だわ、と乙女は小さく溜息を吐く。
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