恋し、挑みし、闘へ乙女
表玄関には、この前と同じように赤い綿生地に鼓と白抜きされた暖簾が掛かっていた。それをくぐると待ち構えていたように「いらっしゃいませ」の声が店内から響く。

小桜が散りばめられた絣の着物を着た若い店員だ。彼女が「二名様ですか?」と元気よく声を掛け、「あら?」と首を傾げる。

「ん? 君はこの子に見覚えがあるのかい?」

彼女の視線が綾鷹に向き、「ウワッ!」とその小さな目が目一杯開かれる。

「超絶イケメン!」

思わず叫ぶ彼女に、さもあらん、と乙女は心の中で頷く。

「はっ、はい! 先日ですね、男性と消えたお客様かと思われます」

悪びれず店員が答える。

「なっ何を……!」
「私、そのお部屋の担当だったんです」

そう言えば……と乙女も思い出すが、どうやら彼女の意識は既に乙女にないようだ。視線は綾鷹にロックオンされている。

何なのこの女! 無視されたことと『男性と消えた』の言葉に乙女はムッとする。

「私は……」と言い返そうとすると、「では、この前と同じ部屋は空いているかい?」と綾鷹が乙女の言葉を遮るように訊ねると、「はい!」店員が愛想よく答えた。

「それと、君がその部屋を担当してくれる?」

破壊的に魅惑的な綾鷹の笑みに、店員はポーッとなりながら「はい、承知致しました」と二つ返事で応じ、二人を部屋に案内する。

部屋に入り、店員が一時辞すると乙女は嫌味を込めて言う。

「流石、人タラシですね。あの店員さん、絶対に綾鷹様に惚れましたよ」
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