恋し、挑みし、闘へ乙女
小説のことを知っているのは……ミミと編集長の二人だけのはず、他に漏れることなどない。

「どういう経緯で知ったのですか?」

疑問を疑問のままにしておくのが嫌いな乙女はさらに追求する。

「流石、小説家だね。好奇心旺盛だ。教えて欲しいの?」

綾鷹の瞳が悪戯っぽく笑う。

「タダってことはないよね」
「報酬を請求するということですか?」

私以上のケチだわと乙女は思う。

「お幾ら払えばいいのですか」

だが、経緯は知っておかねば、と要求に応じる構えを示す。

「そうだな……これでいいよ」

綾鷹の顔がいきなり乙女に近付く。そして……不意打ちの口づけ。
アワアワと目を見開き固まる乙女を置き去りにして、綾鷹が言う。

「出版社『蒼い炎』と編集長である黄桜吹雪は国家の監視下にある。ゆえに、その周りにいる人間を徹底的に調べ上げた」

あまりに衝撃な言葉に、口づけの件はたちまち空の彼方に飛んでいく。そして、ミミの言っていたあの噂は本当だったのだと乙女は知る。

「君の存在はそのとき偶然に知った。禁忌な恋愛小説家の存在をね。知っているのは一部の者だけだったのだが、どこで漏れたのか夜支路の耳に入ってしまった」

情報漏洩……スパイでもいたの?
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