恋し、挑みし、闘へ乙女
「何が何やらです。少し話を噛み砕いて詳しく説明して下さい」

フムと綾鷹が同意の態度を示す。

「さもあらんか、寝耳に水のようだからな」

「なら、説明の礼を先に貰っておこう」とまた顔を近付ける。だが、今度は乙女の反応の方が早かった。両手でそれを阻止する。

「やめて下さい! 初めての口づけだったのに!」
「ほー、ファーストキスということか」

綾鷹がニヤリと笑う。

「それは光栄だ。これで身も心も私のものということだな」
「――身も心もって! どこをどう取ったらそうなるのですか!」

乙女が真っ赤な顔で反論すると、綾鷹の長い腕が乙女に伸び、その手がポンポンと乙女の頭を軽く叩く。

「可愛いね。実にいい反応だ。しかし、他の男の前でその顔はして欲しくない。精々、私で慣れておくれ」

彼の手の下で、何て男だ、と乙女は綾鷹を見上げキッと睨み付ける。だが、綾鷹の方はどこ吹く風だ。

「國光、オムレツライスの旨い食堂があったな」

運転手に声を掛ける。

「神田一番食堂でしょうか? あそこはビフテキも美味しゅうございます」

オムレツライスにビフテキ……途端に怒りが萎み、乙女の喉がゴクリと鳴る。
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