俺様社長に甘く奪われました

「ちょうど今、莉々子の恋バナで盛り上がっていたところだったんです」
「……莉々ちゃんの恋の話って?」
「社長とのことですよ」


 ヤッホーでもするように口元に手をあて、真紀が志乃に向かって耳打ちの仕草をする。やっと恋をしようと思えるようになった莉々子のことが嬉しくて、真紀がはしゃいでいることがわかるだけに止めることができない。


「……社長? そういえば前に付き合おうって言われたとか……」


 志乃の顔が曇ったように見えたものの、それはほんの一瞬のことだった。おそらく相手が社長という恐れ多い立場だからだろう。


「そうなんです。その口説き文句に、莉々子がとうとう落ちたんです」


 真紀に言われて莉々子は顔が熱くなる。人にそう説明されてしまうと照れ臭い。


「それじゃ、社長と付き合うの?」
「……そうですね」


 この先どうなるのかはわからないが、彼のことを好きなのは今の莉々子の素直な気持ちだ。


「そう。よかったわね、莉々ちゃん」
「ありがとうございます」


 莉々子が頭を軽く下げて顔を上げると、志乃はテーブルに置いた手に視線を落としていた。どことなく暗い表情に見えなくもない。


「志乃さん、なに飲みますか?」


 真紀に聞かれた志乃はメニュー表をめくってから、「そうね……ジンライムにしようかな」と答えた。

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