俺様社長に甘く奪われました

 私の想いが通じることはないだろうと諦めかけていた矢先のことです。彼とのことを莉々ちゃんから聞かされ、激しく動揺しました。どうして私じゃなく、莉々ちゃんなのと。それからは、自分の不甲斐なさを棚に上げ、莉々ちゃんに怒りの矛先を向けるようになってしまいました。

 ハンドクリームを捨てたのも、コーヒーカップにヒビを仕込んだのも、落成式のキャンセル事件も、駅の階段で莉々ちゃんを押したのも、すべて私がやったことです。冷静になった今となっては、とても恐ろしいことをしてしまったと後悔の嵐です。

 莉々ちゃん、今さらですが、総務部であなたと仕事が一緒にできて、本当に楽しかったです。明るく素直で、総務部のムードメーカーである莉々ちゃんなら、きっと望月社長のことを強く支えていけると思います。私に遠慮したりせず、莉々ちゃんは彼と幸せになってください。これは私からのお願いです。
 本当に本当に、ごめんなさい。そして、ありがとう』

 最後に感謝の言葉で結ばれた手紙には、莉々子への恨みごとはひと言も書かれていなかった。

 そっと手紙を封筒にしまい、壁にもたれる。
 気づかないうちに志乃を傷つけていたことを改めて思い知り、莉々子は胸が痛んだ。志乃のした行為は決して賛成できることではないが、志乃自身のことは憎めない。奏多を強く想うがために、それが違う方向へといってしまったのだろうから。

 莉々子にできることは、ただひとつ。志乃の手紙にもあったように、奏多をそばで支えていくこと。それが、志乃の恋心を摘んでしまった自分の使命。
 深呼吸をして気持ちを入れ替え、莉々子はミーティングルームをあとにした。

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