俺様社長に甘く奪われました
百合を“ちゃんづけ”で呼ぶとは思いもせず、その意外性に驚かされた。東条は朝ソリの社員からみれば、雲の上の存在とも言える人間。その人物が百合に頬を抓られて、口では拒みながらもまんざらでもない表情をしているのだから。いや、むしろ喜んでいるようにすら見える。
「いやです。それじゃ笑ってくださいますか?」
「……わかったから。ったく、百合ちゃんには敵わんな」
かわいらしく小首を傾げる百合に、頭を掻きながら東条が照れくさそうにする。
なんだか新婚夫婦を見ているみたいだ。自分たちより、よほど仲が良さそうに見える。
隣に座る奏多が、「いつもこんな感じなんだ」と少し呆れ顔で莉々子に耳打ちをした。
百合のおかげで表情を緩めた東条が軽く咳払いをしてから、「東条源之助だ」と口を開く。重々しく言った割には、表情はさきほどと比べものにならないくらい柔らかかった。
懐石料理が運ばれてくると、百合は東条にしょうゆを注いであげたり、小皿を取ってあげたり、甲斐甲斐しく世話を焼く。そんな百合を見つめる東条は目を細め、愛しくてたまらないといった様子。莉々子に向けられる目と違って当然とはいえ“好き好きオーラ”が溢れている。莉々子はそんな東条をくすぐったい思いで見た。