軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
ボドワンは遠縁であるクラーラをとても尊敬し慕っていたようだし、何より彼はシーラの親友だ。ボドワンが欺く演技をするはずがない。
どうしたらいいのか、シーラは悩み焦れた。
生まれてすぐに離れ離れになってしまった母。この機会を逃したら、もう二度と顔を見ることすらできないかもしれない。
逡巡するシーラを助けるように、マシューズが良いことを思いついたとばかりに提案をした。
『ならば、書置きを残されたらいい。事後報告にはなってしまいますが、今は陛下の承認を得るためのお時間さえ惜しい状況です。シーラ様がご無事でどこにいるのかが分かっていれば、絶対に大事にはなりません。シーラ様が自分のご意志で行くのだと一筆したためられれば、アドルフ陛下も安心されるでしょう』
それを聞いて、シーラは納得した。勝手なことを怒られる可能性はあるが、居場所と無事であることを伝えておけば余計な心配をかけることはないだろう。
アドルフを怒らせることは嫌だけれど、ここで母に会わなかったらきっと一生後悔する気がした。生きている人間に償うことはできても、天に召された人間と再会することは二度とできないのだから。
『メア宮殿に戻られたら、僕も一緒に罪を請け負います。あなただけに苦しい思いはさせません』
勇気づけるようにボドワンに手を握られて、シーラは頷いた。帰ってきたときには、どんな贖いでもしようと思う。だからどうか、母に会わせて欲しい。
マシューズが慌てて馬車からとってきた紙とペンとインクで、シーラは思いの丈を込めてアドルフに手紙を綴った。どうか心配しないで欲しい、必ずすぐに戻ると何度も繰り返して。
そして手紙を護衛についていたマント姿の男に託し、シーラは何度も宮殿を振り返りながら馬車へと乗り込んだのだった。