軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
『お母様には会いたいけれど、私の一存で勝手なことはできないわ。きちんとアドルフ様を通して申請してもらわないと……』
毅然と断ったシーラに、マシューズはとても悲しそうな表情を浮かべた。
『私共もそうしたいのはやまやまでございます。しかし、アドルフ陛下はお許し下さらないでしょう。だからこそ、このように密かにシーラ様をお迎えにあがったのです』
以前アドルフがマシューズと言い争っていたのは覚えている。だから申請が通らないと思っているのだろうが、アドルフはそんな狭量な男ではないはずだ。
『そんなことはないわ。今は無理でも、結婚式を終えて私が正式な皇妃になったら、色々な場所へ連れていってくださるとアドルフ様は仰っているもの。だから、四ヵ月後の結婚式が終わった後なら――』
『それでは遅いのです!』
シーラの言葉を、マシューズの悲痛な叫びが遮った。隣に立つボドワンも、どこか痛ましい表情を浮かべている。
『クラーラ様は先月かかった風邪が悪化し、肺を病まれてしまいました。お心が弱り床に臥せられていたクラーラ様には、病に打ち勝つ体力がなかったのです。今も病状はどんどん悪化しており……、医師の話ではあと何日もつか……』
告げられた母の危篤に、シーラの血の気が引く。
まさか、ようやく母のことを色々と知れた矢先に、永遠の別れが訪れかねないだなんて。
『アドルフ陛下はとある政治的な理由から、結婚式が終わり教皇にシーラ様を皇妃と認めさせるまでは、絶対にあなたを国外へはお出しになりません。アドルフ陛下を説得しているうちに、クラーラ様のお命は……』
マシューズは口を噤むと込み上げてきた涙をこぶしで拭った。以前の謁見のときでも彼はシーラを見て涙を零していた。きっと情深く涙もろい性格なのだろう。
俯き唇を噛みしめているボドワンの表情を見るに、きっとこれは嘘ではないと思えた。