軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
アドルフは部屋に備え付けられている、花柄の捺染生地が張られたソファーに座ると、向かいの席に座るようにシーラに促した。

おずおずとしながらシーラが腰を下ろすと、クーシーもついてきてソファーに飛び乗る。

クーシーのフワフワした背を撫でながら気持ちを落ち着かせていると、向かいの席のアドルフが「何が不満だ」と低く問いかけてきた。その声が強圧的に感じられて、シーラはもう逃げ出したくなってしまう。

「……ここは嫌いです。私は自分のことが自分でできるのに、ここの人達はそれをさせてくれません。着替えも、洗身も、髪を結うのも。それに食事だって、食べきれないほどいっぱい出されて困ります。人が大勢いて、長い挨拶をされるのも苦手です。それから……あなたが怒ってばっかりいるのが、一番嫌です」

たどたどしくも、自分が本当に嫌だということを必死に伝えた。自分がここにいることがどれだけ苦痛か分かってもらえれば、教会に帰してもらえるかもという希望を込めて。

そしてその言葉は確かにアドルフに届いたのだろう。彼の顔が一瞬、引きつったように見えた。

アドルフは口もとで手を組むと目を伏せ、しばらく考えるように黙ってしまう。そして、開いた瞳をシーラから逸らしながら、彼らしくない圧のない声で呟いた。

「……怒っているつもりではない。けど、そう思われたのなら謝る。……すまなかった」

素直に謝罪されたことを、シーラは意外に思った。自分の非を認め反省し、謝れる人はとても良い子だと、幼い頃シスターに教えられたことを思い出す。

(……皇帝陛下は、とても良い人だったの?)

いつも怒っていて怖い人だという印象が、少しだけ和らいだ。

「だが、身の回りの世話を侍女がすることも、食べきれないほどの食事が並ぶことも、宮廷官らの挨拶が長いことも、慣れて欲しい。それが王族というものなのだからな」

けれど続けて言われた答えには、シーラは頬を膨らませざるを得なかった。
 
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