軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
見事な跳躍で宙に弧を描き馬は着地した。
ついに宮殿から脱し、さらに市街地を駆け抜けようとして、シーラとボドワンは信じられないものを目にする。
慌てて手綱を引き馬を止めたふたりの前に立ち塞がっていたのは――小銃を構え発砲準備の構えをとる、歩兵隊の壁だった。
いつの間にか回り込まれていたのか。そう思い、シーラとボドワンの顔に絶望の色が浮かぶ。
しかし。
「シーラ様、ボドワン殿、早くこちらへ!」
聞き覚えのある声にそう呼びかけられて、シーラはハッと気づいた。この後ろ丈の長い特徴的な上衣の軍服は、よく知っている。そう――ワールベーク帝国陸軍の軍服だ。
「ボドワン、帝国軍よ!」
シーラはそう叫ぶと馬から飛び降りようとする。すぐさま駆けつけてその手を取ってくれたのは、アドルフの近侍侍従武官長であるテオドールだ。さっきの声は彼だったのだ。
「シーラ様、ご無事……とは言い難い状況ですが、お命があって何より。さあ、後は我々に任せ避難してください」
血だらけのシーラの手を見てテオドールは一瞬顔をしかめると、すぐに歩兵隊の後方へと案内した。その後ろをボドワンとクーシーもついていく。
「どうして帝国軍がここに? アドルフ様は帰られたのではなかったの?」
信じられない事態にシーラが尋ねれば、テオドールは振り返ってさも当然のように言った。
「シーラ様を置いて陛下がご帰国されるとお思いですか? 我々はシーラ様がエグバート宮殿を出るまでご無事であられるよう、王都に留まり監視していたのです。まさか自力で脱出されるとは予想外でしたが、迎撃の陣を敷くのが間に合ってよかったです」
それを聞いてシーラは思い出す。アドルフが『お前が求めれば、俺は必ずお前をこの胸に抱きとめてやる』と言っていたことを。
彼は約束通り、助けを求めたシーラを抱きとめたのだ。己が誇る最強の軍隊で。
(私は守られていたんだわ。離れていてもずっと。アドルフ様はいつも、いつだって……必ず私を守ってくださる)
決して約束を違えないアドルフの至誠さに、シーラは胸が熱くなった。自分がどれほど彼に大切にされているのかを痛いほど感じ、彼に会いたくてたまらなくなる。
そのときだった。歩兵隊の後ろに陣を構える騎兵隊の先頭に、黒い軍馬に跨り青い軍服の裾を翻し、左胸に帝国君主の証である鷲の大勲章を輝かせた男の姿を見つけた。
「アドルフ……様……」
その神々しいほどに勇ましい姿に、シーラは奇跡を見たように立ち尽くし、みるみる涙を溢れさせていく。
今すぐ彼に向かって駆け出し抱きしめたいが、感激のあまり身体が動かなかった。
「シーラ」
するとアドルフが、まっすぐに前を見据えたまま名を呼んだ。