軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
離宮の中に衛兵らが集まってしまったせいで、門と庭がもぬけの殻だったことは運が良かった。
さらにシーラ達にとって幸いなのは、追いかけてくる衛兵達が銃を発砲できないことだ。
ボドワンとクーシーには撃っても構わないが、シーラを傷つける訳にはいかない。万が一にでも殺してしまったら、マシューズ達の計画が水の泡になる。
それを利用して、シーラ達はなるべく身を寄せ合って走った。
離宮の敷地を抜け出したところで、衛兵の乗ってきた馬が繋がれているのを見つけ、ボドワンは颯爽とそれに跨った。すぐにシーラの手を取り、自分の後ろに乗せる。
「しっかり掴まっててください!」
思い切り馬の腹を蹴って、ボドワンは馬を全力で走らせた。その隣にぴったりとクーシーもついてきている。
「でも、これってどこまで逃げればいいの!?」
振り落とされないようボドワンの背にしがみつきながら、シーラが声をあげた。
このまま宛てもなく逃げ続けたところで、いつかは馬の体力が尽きる。宮殿の敷地内はもちろん、街まで逃げたところで大勢の衛兵に包囲されればおしまいだ。
「分かりません! でも逃げなくちゃ捕まっちゃいますから!」
ボドワンの言うことはもっともだ。けれどボドワンとシーラのふたりを乗せた馬も、ずっと走りっぱなしのクーシーも、だんだんと速度が落ちている。
後ろを振り返れば闇夜に紛れ、馬に乗った衛兵達の姿が見えた。数十人はいるだろうか。もちろん皆、小銃を持っている。
迫りくる敵の手に身を竦めながら、シーラは奥歯を噛みしめる。
(嫌! 絶対に捕まりたくない! 私はやっと自分がいたい場所を見つけたんだもの。私は森の教会より、お母様のいる祖国より、アドルフ様のもとに帰りたい!!)
祈るような気持ちでシーラがボドワンの背にぎゅっとしがみついたときだった。
「飛びますよ、シーラ様!」
宮殿の正門までやって来ていたボドワンが馬の手綱を引き、立ち塞がる衛兵の頭上を飛び越える。