軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
ワールベーク帝国の首都にあるメア宮殿。そこは皇帝一族とその臣下達の居住でもあり、政務を行う行政機関でもある。

首都の中央に構えられたメア宮殿は広大な敷地を有していた。コの字型に建てられた本館は西から順に、人々の居住区である宮廷部分、訪客を迎えるための謁見室、舞踏会場、晩餐室、大広間、図書館、美術館、大聖堂などを備えた中央区、そして行政機関の朝廷区に別れている。

ここで暮らし働いている者は、宮廷官だけでなく従僕や召使、厩番なども含むと二千人近い。小さな集落にも匹敵する。

敷地内には軍事演習場や乗馬場などの施設の他、噴水や薔薇園、果樹園などを有した庭園、そして皇族所有の狩猟公園などもある。

ここに来て二ヶ月、シーラはこの広い宮殿を少しずつ見て回り、ようやく全貌が把握できた気がする。

もっとも、朝廷区や軍事関係の場所はすべて立ち入り禁止だし、人々の暮らす居住区や宿舎を勝手に覗く訳にはいかないので、シーラが行けるのは庭園や図書館など公開されている場所ばかりだけれど。

その中でシーラがもっとも気に入っているのはやはり果樹園だ。樹に囲まれた場所は落ち着く。天気がよければ一日一回、クーシーとここへ来るのが日課となっていた。

いつもならどこへ行くにも侍女がついてくるのだが、果樹園を散歩するときだけはクーシーとふたりだけでもよいとアドルフが許可してくれていたのも嬉しかった。きっと、シーラが宮廷でのわずらわしさを忘れられる唯一の場所だと分かってくれていたのだろう。

そのことにシーラはとても満足していたのだが……最近、どうにも気になることができてしまった。
 
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