軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
果樹園を最奥まで進んでいくと人気のない道へ出る。そこを横断してさらに進むと、高い柵にぶつかるのだ。柵は延々と続いており、どこまであるのか目視出来ない。そして柵の向こうは大きな木々が茂っているのを見るに、どうやらここは狩猟公園ではないかとシーラは予想した。

「ねえ、クーシー。あっち側って森かしら?」

シーラは最近、果樹園を抜けてこの柵の前に来るたびに同じことを言っている。

森はシーラにとって一番馴染みのある風景だ。教会のあった森とは違うとはいえ、木々の馥郁とした香りや、木漏れ日の優しさ、独特の静けさは変わらない。

その懐かしさに惹かれ、シーラはどうしても柵の向こうに行きたくなってしまう。

一度だけ側仕えの侍女に頼んでみたことがあった。狩猟公園を探検してみたいと。しかし侍女はとんでもないと首を横に振ってみせた。あそこは公園とは銘打っているが、奥はそのまま山へと繋がっている天然の森だという。

当然、野生動物だっている。狐や鹿だけならまだしも、奥へ行けば蛇や野犬などもいるのだとか。そんなところを散歩したいだなどと、当然許可されるはずがない。

すげなく断られてしまい、シーラはしょんぼりした。

森の歩き方は慣れているつもりだ。けれど、教会のあった森と狩猟のできるここの森とでは、やはり勝手が違うのだろう。あきらめるしかなかった。

けれど、それでも木々の香りが恋しくて、シーラは果樹園を散歩するたびに森を見上げながら柵沿いを歩くようになっていた。

そんなある日のこと。

いつものように柵沿いを歩いていると、突然クーシーが鼻をヒクヒクとさせて道の先へと走り出した。

「遠くに行っちゃだめよ!」

慌ててシーラが追いかけると、クーシーは何やら柵の一ヶ所で足を止め地面を鼻で掘り進めている。見てみると、腐りかけた柵の根元が崩れ、ぽっかりと穴が開いていた。

クーシーは地面を掘り穴を広げると、なんと身を屈めて穴を潜っていってしまった。
 
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