軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
「お前がシーラ・アッシュフィールドだという証拠は?」

続けて尋ねたアドルフに、シーラはワンピースの襟元を手で探るとネックレスを取り出した。そして首から外すと、薔薇が描かれたカメオのネックレスをアドルフに手渡す。

「……フェイリン王国王太妃、クラーラ様の紋章ですね」

 アドルフの手元を隣から覗き込んだヨハンが呟く。そして石座を裏返して見てみると、そこにはシーラの名と生年月日が刻んであった。

「お母様が、私が赤ちゃんのときにくれたものだそうです」

シーラがどこかソワソワとしながら説明を付け加える。大切なものなので、ちゃんと返してもらえるか気にしているのだろう。

アドルフはネックレスをシーラの手に戻しながら、観念の溜息をついた。信じたくはないが、彼女が正真正銘シーラ王女で十八歳であることに、間違いはないようだ。

「……まあ、いい。まともな栄養をとって日の光でも浴びれば、そのうち人並みの成長ぐらいはするだろう。とにかく、彼女がシーラ王女で間違いないようだ。丁重に宮殿まで連れていくぞ」

そうヨハンに命じてから、アドルフはシーラの真正面に立つと、高低差のありすぎる目線を無理やり合わせて言った。

「シーラ・アッシュフィールド。お前は我が帝国ワールベークとフェイリン王国の平和の礎となるため、この俺、アドルフ皇帝に差し出された。両王家の血を引く子を世に誕生させることで、この戦争は真の終結を迎える。分かるな? お前がするべきことは、皇妃としての務めに励むことだ」

政治的な用語などを排除し、なるべく分かりやすく端的に告げたつもりだった。

しかし、シーラは明らかに『突然なんの話をしているのですか?』といわんばかりの表情を浮かべている。

奇妙な沈黙が流れた。
 
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