軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
本日もう何度目になるか分からない溜息を吐き出して、アドルフはくびれのないワンピース越しにシーラのお腹を指でトントンと叩く。
「俺の妻となり、この身に俺の子を孕めと言ってるんだ」
改めて、この上なくシンプルに伝えた。いくら無知でもこれならば理解するだろう。
けれど、話が即座に通じないもどかしさから、いささか口調に苛立ちが滲んでしまったことを、アドルフはすぐに後悔する。微かに表情を曇らせたシーラを見て、初対面の妻にそんな顔をさせてしまった自分の不甲斐なさに、口の中で小さく舌打ちをした。
しかし彼女の表情は萎縮ではなく深く頭を働かせていたせいのようだ。シーラは突然パッと顔を晴らすと、ポンと小さく手を打って納得したように頷いた。
「あなたと番(つがい)になれと、いうことですか?」
「…………そうだ」
この際、言い方はどうでもいい。彼女がことを理解さえできればいいのだと、アドルフは自分に言い聞かせ野暮な訂正を呑みくだす。
答えが間違っていなかったことに安堵したのか、シーラは白皙の頬をほんのりと染めて、口角を上げた。
欠点のない唇が綺麗な弧を描き、シーラの顔にパッと華やかさが増す。彼女が初めて見せた本当の笑顔に、アドルフは一瞬、ほんの一瞬だけ、目を奪われた。
けれどシーラはすぐに戸惑いと愛想笑いの顔になると、足元で伏せているハウンドドッグに視線を向けたり、シスターの方を振り向いたりと、落ち着かない様子を見せる。明らかにこれらからどうすればいいのか、分かっていない。
「あの、どうすれば……?」
おずおずと尋ねてきたシーラに、アドルフはヨハンが持ってきた外套を手早くかけてやると、「俺と共に宮殿へ来い。そこがお前とお前の夫の住処だ」と極力彼女に理解しやすい言葉を選んで伝えた。
そして、「でもまだクルミが」だの「クーシーも一緒に」だのと訴えるシーラの腕を引いて歩き出す。