軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
するとボドワンはにっこりと人懐っこい笑みを浮かべて、シーラに一歩近づいた。

「クラーラ様のご出身であるチャールズ家は僕のシャルル家と同じ一門なのですよ。いわば親戚みたいなものです。そのご縁もありまして、僕はフェイリン王国へ外交に遣わされることが多かったので、クラーラ様のことはよく存じ上げております」

つまり、シーラにとっても彼は遠縁というわけだ。思ってもみなかった繋がりのある人物との出会いに、シーラは嬉しそうに「まあ……!」と感嘆の声をあげる。

「ねえ、お母様のお話もっと聞かせて。私はお母様に似ているの?」

今まで教えてもらえる術がなかったからあきらめていたが、ボドワンならいろいろ詳しそうだし、何より隠さず教えてくれそうだ。シーラの中に俄然、母への興味が沸き上がる。

好奇心で瞳を輝かせながら詰め寄ってきたシーラに、ボドワンはクスクスと笑うと宥めるように両手で肩を叩いてきた。

「いくらでもお話しますよ。けれどその前に、広間に戻りましょう。宮廷顧問官や侍女の皆さんが探し回っているはずですから」

言われてシーラはハッと顔を赤らめた。自分は授業をすっぽかしている状態だったのだ。

「ご、ごめんなさい。そうだわ、まずはポワニャール語の授業を始めなくっちゃ」

シーラが慌てて駆け出そうとすると、ボドワンはすかさずそれを止め手を差し伸べた。

「バルコニーで駆けては危ないですよ」

またしても失態を見せてしまい、シーラはさらに顔を赤くする。けれどボドワンはそれを蔑むでもなく、優しく微笑んで手をとると。

「僕も駆けっこは大好きです。よかったら午後のお散歩の時間、僕もご一緒させてもらっていいですか? シーラ様とそちらのハウンドドッグとの追いかけっこに、僕も混ぜて欲しいな」

そう言って悪戯っぽくウインクして見せた。

「どうして私がクーシーと果樹園で追いかけっこをしてることを知っているの?」

驚いてシーラが問い返せば、ボドワンはついに噴き出して笑い声をあげた。

「あはは、冗談で言ったのに、シーラ様は素直で楽しいお方ですね」

カマをかけられたのだと気づいて、シーラは「ひどい!」と頬を膨らませたが、彼の笑い声につられて、つい一緒に笑い出してしまった。

遠縁だと聞いたせいか、それとも笑顔が人懐っこいせいか、なんだかボドワンには親しみを感じる。

アドルフが戦地に向かったことで張り詰めていたシーラの心が、少しだけ慰められたような気がした。
 
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