軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
アドルフが遠征先に向かってから三日が経った。
この宮殿へ来てから初めて迎えるアドルフ不在の日々は、シーラを不安と寂しさに苛ませた。
夜は遅くまでアドルフの無事を礼拝堂で祈り、ひとりきりの朝食は味気なくて食べる気も起きない。暇ができればすぐに侍従武官のもとへ駆けていき、アドルフや遠征軍に何か動きがあったか聞きにいった。
大切な人を戦地へ送るという経験はこんなにも怖いものなのかと、痛感する。
そんなシーラの壊れそうな心を支えてくれたのは、クーシーの存在とボドワンの優しさだった。
ボドワンはシーラの知らなかったクラーラの話をたくさん聞かせてくれた。シーラの青い瞳はクラーラ譲りであること、夫をとても愛する妻だったこと、気高く強く美しい女性であること。
それだけではなく、ボドワンは驚愕の事実もシーラに教えてくれた。
シーラの父である先代王は十八年前――シーラが生まれてすぐに亡くなり、王位は当時七歳だった王太子カーティスが継いだというのだ。
父がなくなっていたことも、七つも上の兄がいたことも、まったく知らなかった。そのうえ、カーティスは母を摂生にして少年王になったというのだから、ひたすら驚きだ。
「大変だったのね、フェイリン王国は……」
あまりにも衝撃が大き過ぎて、なかなか気持ちが整理できない。
呆然としているシーラを落ち着かせながらも、ボドワンの話は、核心にまで迫っていった。
「当時のフェイリン王国はたいへん混乱したようですよ。少年王の戴冠に反対する者も多く、暗殺騒ぎなどもあったそうです。それで――当時まだ赤ん坊だったシーラ様を人質にとり、カーティス様の戴冠を妨害しようという計画が漏れ聞こえてきまして、クラーラ様はシーラ様をお守りになるため、あの教会に避難させたのだと聞いています」
王女でありながら何故王都から隔離されていたのか、長年の秘密が明かされシーラは驚きと感激で言葉もなく固まってしまった。