軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
――私はさらわれたのだ。

華やかな柄の織り込まれたカーペットに、モスリンのカーテンが掛けられた大きな双子窓、彫刻のついた白大理石の暖炉と、真鍮の装飾がついたマホガニー製の家具に囲まれた豪奢な部屋の真ん中にぽつりと座り込み、シーラはそう考えた。

赤ん坊のときから十八歳になるまでシーラはずっと、人里離れた教会で修道女(シスター)と暮らしてきた。とはいっても、シスターは家族ではない。シーラの面倒を見るためにどこからか派遣されてくる者で、一年ごとに人が入れ替わった。

家族と呼べるのは十年前に森で拾った狩猟犬、クーシーだけだ。

森の奥の教会は拝礼者どころか人が滅多によりつかず、シーラも森の外に出たことはない。

食料は、教会の裏で育てている野菜が少しと、十日にいっぺんパンやチーズや卵が町から届けられる。それ以外にはシーラが森の果実やキノコを摘んできたり、クーシーがどこからかウサギやキツネを獲ってくることもあった。

一日の内することといえば、食料の調達、食事の支度、衣服の手入れ、建物の手入れ、神様へのお祈り。そして余った時間でクーシーと遊んだり、本を読んだり、シスターとお喋りをするくらいだ。

驚いたり、戸惑うようなことなどほとんどなかった。

派遣されてくるシスターは物静かな老女ばかりでシーラに刺激的なことを教える者はいなかったし、毎日お祈りを捧げている神様も彼女に変哲のない日常を与え続けた。

日々の暮らしに追われながらも平和で、毎日がひなたぼっこのように穏やかな日常。今までで一番嬉しかったことといえば、森で迷っていたクーシーを助け、家族になったこと。二番目は料理上手だったシスターが、小麦粉と牛乳のお粥に卵と果実を加えたファー・ブルトンという甘いお菓子をよく作ってくれたことぐらいしか思い浮かばない。

そんなのどか過ぎるぐらいのどかな毎日を暮らしてきたのだ。そしてシーラは、きっと死ぬまでこんな日々が続くと思っていたし、それで不満はなかった。

願うことといったら、明日は温かくなるといい、次の配達に卵が多めに入っているといい、そんなことぐらいだ。贅沢な暮らしも、高貴な扱いも、素敵なつがい相手も、望んだことなどない。
 
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