軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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翌日になっても、新しい報せは届かなかった。つまりは未だ消息不明のままということだ。
昨日の報告を受けてからシーラは、頭に霞がかってしまったように思考が働かない。自分に出来ることがあるなら少しでも力になりたいと思うのに、上手に考えることができなくて思考が足踏みしている。
「アドルフ様……」
自室の窓辺に立ちながら、鉛色に曇った空を見上げてぼんやりと呟く。
シーラの具合を気遣って、今日はすべての授業が中止された。今の状態では何を教えられても頭に入っていかないだろうから、ありがたいと思う。
クーシーは元気のないシーラを慰めるように、ピタリと寄り添って離れようとしなかった。けれど、いつもなら撫でているだけで癒されるクーシーのフワフワした手触りも、今のシーラの心には何も響かない。
考えたくはないが、アドルフの元気な顔がもう二度と見られなくなってしまったらどうしようという、押し潰されそうな不安ばかりが押し寄せてくる。
まだたったの数ヶ月しか一緒に過ごせていない。まだまだ彼のことが知りたくて仕方がないのに。ようやく少しだけ互いが分かり始めたというのに。もっともっと抱きしめて欲しかったのに。
アドルフの姿が瞼の裏に浮かんでは消えて、シーラの頬をひとすじの涙が滑っていく。
(ひどいわ、アドルフ様……。私に恋する気持ちを植え付けていなくなるなんて、許さないんだから。私を何度も妻だと仰ったくせに。結婚式が済んだら色々なところへ連れていってくださると約束したくせに。私を見捨てないと、必ず帰ると……誓ってくださったくせに……)
ボロボロと涙が溢れると同時に、シーラは脚から力が抜けてその場にへたり込んだ。クーシーが心配そうに、頬に流れる雫を舐めてくれるが、涙は次から次へと溢れ止まりそうにない。
(……なんでもいい。見捨てられても、妻にしてもらえなくても、教会に追い返されても構わない。嫌われても呆れられても、なんでもいい。だからお願い。神様、アドルフ様を無事に帰して……!)
顔を覆ってシーラはハラハラと泣き続けた。
部屋にノックの音が響いたが、泣き濡れている彼女の耳には入らない。すると、数回のノックの後「シーラ様? 入りますよ」との声と共に扉が開かれた。