軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「我々は二手に分かれラーゴ砦にいる敵軍を攻囲する予定でした。しかし……モンテ山脈から進軍するはずの陛下の部隊が、いつまで経っても現れず……現在、消息不明という状況です」
いったいどういうことなのか、混乱して息が止まりそうなシーラの耳に、ヨハンと武官らの会話が届く。
「モンテ山脈……まだ雪が溶けていないだろう山を、大砲を引いて超えようとされたのか?」
「陛下のお考えならあり得ます。敵軍はまさか雪山からワールベークの軍が来るとは夢にも思っていないでしょうからね。完全に敵の意表をついた作戦かと」
「しかし危険すぎる! 下手をすると雪崩に巻き込まれた可能性だって……」
武官のひとりがそう喚いた声を聞いて、シーラの身体から力が抜けた。全身の血が冷たく凍てついてしまったみたいで、身体が言うことを聞かない。
「シーラ様!」
隣に立っていた侍従が慌てて身体を支えてくれたことで、シーラは自分が気を失いかけたのだと気づいた。
「アドルフ……様……」
どうしていいのか分からない。もしもアドルフの顔を二度と見ることができなくなったら、正気を保っていられる自信さえなかった。
真っ青な顔で震えるシーラを気遣って、ヨハンが侍従に部屋まで運ぶように言いつける。
もっと詳しい状況を聞きたかったが、今は自分の足で立っていることさえも難しい。
おとなしく広間から運ばれながらシーラは、大き過ぎる衝撃に心が壊れないように深呼吸するだけで精いっぱいだった。