TOO MUCH PAIN
雷神のライヴは二回目だった。




初めてのときは、確かSAの対バンのとき。
一発でボーカルの鉄さんに惚れてしまった。

私のめちゃくちゃな人生を、どうでもいいものに壊してくれそうなそのハードコアなメロディが、私を酷く癒やしてくれた。

モッシュにまみれて、倒れそうになって、やばいって思った瞬間音が止まる。

「大丈夫か?」
ステージから降りて私に手を差し伸べてくれたのが鉄さんで、私はそこからぬけだすと、
「女の子は危ないから、後ろにいろ。」
私にだけ聞こえるような声でそう言ってくれた。







もう一度会いたいとむかった、新宿ロフトのライヴには、鉄さんの奥さんの満さんもいて、2人で話している声が聞こえてしまった。

「栄詩がね・・・」

言葉の端々に出てくる男の子の名前が、ああ息子さんが居るんだってわかって、何だかとても複雑な気持ちになる。

カウンターで一人ジンジャーエールを飲んでいると、そんな知りたくもない事がいっぱい耳に入ってきちゃう。



雷神のライブは最前列で見ると決めていた。

真ん中に行くと危ないから、いつもベースの春さんの目の前に行くと、ちょうど鉄さんの顔もよく見れるからいいんだ。ここならモッシュの波もそんなに酷くないし。


みんなダイブするときは、真ん中かギターの友さんの方から飛び込んでいく。
私はそのハードな流れをずっと見ていた。

ラストの曲になり、一番もみくちゃになる曲だったので、私は後ろに行けと目の前の春さんに言われ、仕方なく後ろに下がってみることにした。


一番後ろのミキサーの前、ここだとあんまり見えないなって思いながら背伸びしていると、隣に睨みつけるようにステージを見ている少年がいることに気がついた。

何だかちょっと不機嫌そうで、細い目をもっと細めてずっとステージを見つめているんだけど、身体全体でリズムを取っていて、本当は好きなんだろうなって一瞬でわかる。

じっとその子の横顔をみつめていると、気づいてしまった。




ああ、鉄さんそっくりだなあ・・・



まだまるで子供だけど。




ああきっとそうだ、この子なんだ。
一瞬でわかって何だか嬉しくなると、その子とふと目が合った。




そしてなぜだか、私は彼にキスをしてしまったんだ。





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