誓約の成約要件は機密事項です
「身長は179cm、体重は63kgだ。両方とも君より多いだろう」

目線で尋ねられたので頷く。

「その他の外見的特徴については、君の主観的判断に委ねるが、君が僕に対して、嫌悪感をあらわにしたことはないと思っている。もっとも、職業上の立場と社会的な配慮の結果かもしれないが。しかしながら、周囲からの評価として、服装や髪型、顔かたちに不平不満を聞いたことはここ数年ないから、おそらく一定の常識の範囲内に収まっているものと考える」

――“しかしながら”って日常会話で使っている人に、初めて会った。

仕事上の交渉ごとのように語る涼磨に、少々現実逃避してしまう。

涼磨の外見は、それを職業に活かしてもおかしくないほど整っている。

「年収については、経理の君なら知っているはずだ。この先、増えるか減るかは、経営者だから、君よりも多分に会社の業績次第となる。少なくとも、僕の収入も社員の給与も増やしていけるよう努力は怠らない。会社の見通しについては、この間資料を作ってもらった通りだが、発展の余地は十分あると考えており、十年後に二倍の売上を目指している」

そういえば、涼磨が来る前は見たこともなかった大きな長期目標を打ち立てていた。その資料に使うデータ収集の仕事を手伝ったので、その計画の概要は承知している。

「学歴はアメリカの経営大学院卒。煙草は吸わない。酒は、たしなむ程度。家で飲むのは、週末だけ。深酒は好まない。ギャンブルはしない。趣味と言えるか分からないが、仕事以外の習慣としては、読書とジョギング、水泳。家事は好んでするが、最近は時間がないため、月に二回ほど部屋のクリーニングを業者に頼んでいる」

そういえば、副社長室は、いつ行っても整理整頓が行き届いていた。几帳面な性格なのだろう。
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