誓約の成約要件は機密事項です
――さっさと帰ろう……!

今日は、ゆっくり休みたい。

いそいそと廊下を行き過ぎようとした帰りしな、バリトンボイスに声をかけられて、ゾクッと背中を震わせた。

「相澤さん、もう帰るんだったら、少しいいか」

――もう帰るので、少しもダメです!

なんて言い返せるはずもなく、千帆は副社長室に静かに連行された。

「昨日は、ご馳走様でした」

とりあえず、お礼は大事だ。社会人の基礎だ。

引きつった笑いを貼りつけて、盛大に頭を下げておく。

これで、千帆の用事は済んだ。もう退室していいだろうか。

「いや。昨日は、突然すまなかった。君も戸惑っただろう」

「え、ええ! はい!」

ようやく!

ようやくだ。心が通じそうな気配を感じる。

感激をあらわにした千帆を満足そうに眺めた涼磨は、封筒を差し出した。
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