誓約の成約要件は機密事項です
「何の話をしたのよ?」

「……どんな人がいいかとか、そういう話です」

結局、千帆の出す条件は、ことごとく涼磨に看破されてしまった。

その上、水物まで、すっかりご馳走になったあげくに押し込められたタクシーでは、あらかじめ運転手にタクシーチケットを渡された。涼磨から誘ったこととはいえ、一銭も払っていないのは、完敗した気分だ。

「なるほどね。紹介するには、まずは話を詳しく聞いておかないといけないものね」

「……そうですね」

那央には、そんな調子で本当のところを言えなかった。

どうせ、涼磨が立候補してきたと言っても、冗談だと思われて、笑われるのがおちだろう。

もしかしたら、本当に冗談なのかもしれない。

真面目な顔で言われたし、思い返しても冗談に聞こえる要素は見当たらないし、そもそも涼磨の冗談なんて聞いたこともないが、あれが本気だったと言われるよりは納得できる。

昨夜が何かの気まぐれだったとしたら、数日も経てば忘れてくれるのではないだろうか。それならば、できるだけ涼磨と顔を合わせないようにするのが良いだろう。

副社長である涼磨とは、運が良ければ、話すどころか一目も見ずに一日過ごすことも可能だ。

ただ一つ、問題があるとすれば、副社長室がなぜか経理室のすぐ隣にあるということだ。

とはいえ、涼磨は朝から外出らしい。

どうか出くわしませんようにと願いながら、何とか一日を終えた千帆は、ようやく気を抜いた。
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