誓約の成約要件は機密事項です
涼磨が何も言わずにドアを閉めたことに、安堵と寂しさを感じつつ、千帆はシートベルトを締めた。

よく晴れたドライブ日和だ。東京に来てから、ほとんど車に乗ったことのなかったから、実はワクワクしている。

「少し遠くてもいいか」

「はい、ドライブは好きです」

田舎では車移動がほとんどだから、久しぶりのドライブは楽しみだ。ペーパードライバーなので、運転させてほしいとは言えないのが、残念ではあるが。

涼磨は、迷いのない動作で車を走らせた。

「他は?」

「え?」

「他に好きなものは?」

千帆は、運転席の涼磨を見上げる。

涼磨は、真っ直ぐ前を向いたまま、ギアを動かした。

思ったより大きな手の甲は、滑らかな頬とは違って、筋張っている。男の手だ。

ギアから手が離れたのを機に、千帆の視線もまた頬へと戻る。左から至近距離で見る横顔は、会社では滅多にない角度と距離だ。

「こういうとき、どういう話をすればいいのだろうか。ご趣味は、というやつか」

「……すみません、分からないです」

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