誓約の成約要件は機密事項です
男と二人で出かけるのは、初めてだった。二人で車に乗ることさえ初めての千帆にとっては、正解が分からない。

「他の男とは、どんな話を?」

「まだ、どなたともお会いしていないです」

「結婚相談所に入会したんだろう?」

「はい」

「これから会うのか?」

子どもと話すように、涼磨はしどろもどろの千帆から、一つ一つ情報を掘り出す。

「……明日」

「明日、会うのか」

千帆は、窓の外を見ながら、少しだけ頷いた。

明日、入会してから初めての面談に臨む。初めに会った方とご縁を結ぶ方も大勢いらっしゃいますと、結婚相談所からは発破をかけられた。

状況に寄るが、何人かと並行して会いながら、最終的に交際する人を決めることになるだろう。早く決めたいなら、一人ずつ会うより効率的だ。

その場合、毎回こんな気まずい思いをしなければならないのだろうか。

涼磨は何も言わないが、責められているような気配をビシビシ感じる。ただの被害妄想だったらいいが、まだ付き合ってもいないのに責められるいわれはないはずだ。

「……会わないでくれと言ったら、やめてくれるか」

「え?」

「結婚相談所、退会しないのか」

「……入会したばかりですよ。まだ誰とも会ってないのに」

「僕がいる」

「……」

思わず涼磨を振り返るが、平然と運転していた。どこまで本気なのか、全く分からない。

赤らんだ顔を隠すように、千帆は懸命に窓の外を見る。車は、郊外へと向かっているようだ。

涼磨は、しばらく何も言わなかった。



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