誓約の成約要件は機密事項です

初回面談はなしくずし

その日、18時ぴったりに仕事を切り上げた千帆は、まずメイクを直した。

それで、15分経過。まだ時間がある。

会社のすぐ近くにあるカフェでコーヒーを飲み、逸る気持ちをどうにか落ち着けようと胸元を押さえる。

涼磨と初対面の男の人の3人でご飯……。

緊張しないはずがない。今まで涼磨とはおろか、他の男性たちともこんな少人数で食事をしたことがないのだ。

結局、落ち着こうという努力は徒労に終わりながらも、待ち合わせの駐車場に向かった。

千帆には、交際経験がない。それが、結婚相談所を利用した一番の理由だった。

今まで通りなんとなく過ごしていたら、うまい具合にいい人と巡り合って結婚できた……なんてイメージは、全くわかないからだ。この先も、起きる気がしない。

つまり、結婚するには、これまでとは違うことをしなくてはならないのだ。

論理的に考えた結果、最も効率的で信頼性のおける手段として、結婚相談所を利用することにしたのだった。

結婚したいとは、小さい頃からずっと思っていた。両親の仲が良いからか、姉二人もそう思っていたようだからか、自然と将来像には結婚が入っていたのだ。

祖父母も両親も見合い結婚だし、一番上の姉や従姉妹も結婚相談所を利用している。実際に結婚相談所に入会することには勇気は要ったが、相談所自体には抵抗感はがなかった。

けれど、結婚相談所に申し込んだのは、たった昨日のことだ。まさか、申し込んだばかりで、全く別の方向からこんなチャンスがやって来るなんて、想像もしていなかった。
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