シンデレラのドレスに祈りを、願いを。

部屋に入って悠季くんは悠斗を布団に寝せた。
前髪を指ですき、寝顔を眺めている。

その姿に胸がすくわれる。でもここで流されるのは私たちにとっていいことではない。


『早百合さん。必ず迎えに来るから。だから、いなくならないで』
『え……? 怒ってないの?』
『どうして怒るの。僕、自立してみせるから。待っていて』
『悠季くん?』
『あと、なにかあったら連絡して。病気とか事故とかあってほしくないけど万一のときは僕を頼って』
『うん』
『なにがあっても僕はこの子の父親であることには変わりないんだから』


名残惜しそうに立ち上がる悠季くんは、今までにないような強い瞳をしていた。玄関まで見送る。最後にもう一度キスをして、互いに抱きしめて、別れた。窓から悠季くんの車を見送る。テールランプが見えなくなって、私は泣き崩れた。



翌日は悠斗をなだめるのが大変だった。海で悠季くんと遊んだことがよほど楽しかったのか、ユーキくんは?、ユーキくんは?、と私にせがむのだ。


『悠季くんは遠い国でお仕事することになったの。だから会えないの』
『とおいくに?』
『そう。ずうっと向こうに行っちゃったの』
『またあそぼうねってやくそくしたよ』
『そうなんだ』
『じゃあおゆうはんは? おこさまらんちたべたい』
『ママが作ってあげる』
『ちがう。ままのじゃなくて、おこさまらんち! ユーキくん、いいよっていったもん! あとおもちゃ! ユーキくんかってくれるっていった!』

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