シンデレラのドレスに祈りを、願いを。

悠季くんは、うん、とうなずいた。


「少し早いけどもどろうと思ってる。父や兄さんたちに恩返ししたいんだ。いいかな、早百合さん」
「いつ?」
「年度内には。今の会社には今月中に退職願を提出して引き継ぎも始めたいと考えてる」
「そう……」


いままでは私の母親としての勝手な都合で悠季くんを突き放してきた。
今回は悠季くんの都合で私を突き放そうとしている。
わがままを言っちゃいけないのはわかっている。

でも突然の話に私は頭も心もついていけなかった。

だってまた……離れ離れになってしまう。こんなに近くにいるのに。
いや。離れたくない。


「……き、くん」
「なあに、早百合さん」
「あの、私、もう悠季くんと……」


リンリリンリン。ドアの鈴が鳴った。お客様だ。とっさに悠季くんから離れ、いらっしゃいませと声を出した。メニューを手にしてお客様のもとへ向かう。



そのあともお客様が続けて入店する。悠季くんと話ができないまま、その日は終わってしまった。



☆☆☆
*―*―*
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