バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー




部屋についてから、いつもより柔らかかった彼女の空気がまたチクチクし出した

だが、それよりも俺は店から彼女にまとわりつく不快な臭いをすぐに洗い流したかった

頭を洗っていうるうちに彼女の気分が益々下がっていく気配がする

何かしてしまったか、後をつけていたのがばれたかと色々考えていると彼女の唇から零れる言葉

「…やそくしたのに」

「?」

まるで約束を破った俺を非難するような言い方だが、俺は心当たりがない

「私だけにするって」

「ー…!!」

そこで理解すると同時に心が震える
口元が勝手に緩まって全く締まりのない顔になってしまう

それを悟られないように勢いよくシャワーを彼女にかけてそのうちに顔を整える

いい気にならないようにして、俺の思い違いかもしれない可能性もあると自分を落ち着かせる
でも、真意を確かめたいからきちんと説明してみる

「お前だけだ」

俺が誰か他の人間を連れ込んでいたと思ったのか、だから『いつも』と俺が言った後に機嫌が悪くなったのかもしれない

彼女と約束した日から彼女以外の血は一滴も口にしていない
例え飲み込みがたいほど彼女の血液が不味くとも他のやつのものを吸いたいとも思わない、

俺はもう彼女のものしかいらない

「そもそもお前しかない」

よく分かってないみたいだから念を押してもう一度言う

「こうするのも吸血するのもお前にしかしていない」

もし、俺の考えたように

彼女はいつも俺が『他の人間を連れ込んでいた』と勘違いして、

そして、態度が悪くなったのは『彼女が俺に怒っている』からだとしてー

俺がそうじゃないことを理解して『態度が軟化した』としたら…

彼女は俺に『嫉妬した』

彼女は黙っている、これは俺への誤解が解けたからだろうか?

目線をそらすからこちらを向かせて、真意を探り、疑い深い彼女の心に届くように真っ直ぐ見つめる

その潤んだ瞳で見上げられていると先ほどの自分の考えを肯定してしまいそうになる

彼女の言葉に返事をしていると、彼女の空気がまた柔らかくなってきた

もう決まりだ、遠慮はしない

そのまま冷えた身体を温めるべく彼女を運んで抱き締める

いつもの匂いに戻ったことを確認すると、思わず言葉に出してしまう

「お前以外はいらない」

彼女が望もうが望まずとも、もう俺は彼女しかない

だけど、そんな俺を彼女は全く分かっていない

なら分からせるまでだ、

「時間はたっぷりあるから分からせてやる」



この時俺はまだ気付いていなかった
俺はオレにない俺だけが感じたり思ったりすることばかりに目が行っていた

しかし、その反対もあり得たのだ

俺にはなくてオレにある

彼女へ対する常軌を逸した狂喜や執着にー


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