バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
ピタッと彼が止まって舌打ちしたかと思うと、

「ピンポーン」

(助かった~!)

「そのままでいろ」

と私を制止してさっさと玄関に向かう

確かに私は今まともに歩けないし、浴衣も乱れて胸元が露どころじゃないので今のうちに浴衣だけでも整えておく

優雅に大きなお盆を両手に持つ彼はどこの高級レストランのウェイターかと思うほど上品だ

私の前のテーブルに手際よく料理をセットしていくけど、もし人間だったら彼は確実にサービスを受ける側だろうなと思う

並べ終わるといつもの位置に戻ってくる

「食べづらいんですけど…」

(早く食べたいけど、なんで食べるときまで!?)

「そうか…」

といってパンを一口分ちぎって私の口に入れる

(いやいや、そういう意味じゃないし!)

ゴクンっと喉に追いやられればせっかくの味も全然わからない、今はとにかくお腹が空いていて私は食事を楽しみたい

今度は私もパンを大きくちぎって彼の口にっつこむと、彼は少し驚いた顔をしていたけど黙ってモグモグしている

(よし今のうちだ)

「うわぁ、おいしい~」

卵焼きを一口いれれば濃厚な卵の味に甘味があって私好みだ、一気に箸が進んでしまう

ふと気づくと確かに大きめのパンを入れたけど結構長い時間その状態だ、
味を噛みしめているのかそもそも食べることに馴れていないのか分からないけど、ちょっと不安になって彼をちらっと見て目が合うと彼はゴクンと飲み込んだ

大丈夫そうなので、また大きめにオムレツを切って口に入れるとまたもや素直にモグモグしていて可愛い、子供達が小さいときを思い出してしまう

(そうだ、口に入っているうちに食べないと)

子供が小さいときは何をどれだけ食べているか分からないほどあわただしい食事だったなと懐かしい

夢中でご飯にありついているとまた彼が頬杖をついて優しい顔でこちらをじっと見ている

(恥ずかしい、やめて~)

ベーコンを口に入れようとしたら手を捕まれて阻止される

「それは血になるからお前が食べろ」

とそのまま私の口に入れられる

(お母さんかいっ、いや吸血鬼か)

でも、よくよく考えると昨日は文字通り全身舐め回されて違う体液はめちゃくちゃに吸われたけど血は吸ってない

何のために昨日は姿を現したのだろうかと疑問に思いつつもプチトマトを代わりに口にいれてあげるとちょっと酸っぱい顔をしていて思わず笑ってしまう

「酸っぱいの苦手なんですね~」

「そんなことはない、もっと嫌な味がある…」

といって私の髪に触る

(どんな味?)

って聞きたいけど、その瞳が切なく揺れていて聞きづらいと思っていたら

ウインナーを口に入れられた

「ほいひぃ~!」

自家製らしいそれは、太めで大きく肉汁がぎっしりつまっていてジューシーで美味しい

またこの旅館に来て次は夕食も食べたいなと思ってしまった


< 103 / 167 >

この作品をシェア

pagetop