バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー



そのまま遊ばれつつも車を40分ほど走らせてとても厳かな旅館の前に到着する

(えぇ~!)

夜に到着したにも関わらず人が迎えてくれてそのまま奥の離れに案内される
露天風呂付きのおそらく一番いい部屋だ

「なにも必要ない」

といって案内してくれた人を追い出すと、彼は自分の服を脱ぎだす

(えぇ~!!)

「こんな高いとこ無理です」

彼の裸は完璧すぎて未だに馴れない、自分が何をいっているのかよく分からなくなってきた

「心配する必要はない」

「ヴァンパイアだから踏み倒す気ですか~?」

「ちゃんといつも払ってる」

(いつも…?)

何だか非常に引っかかる

「へぇ、すごいですね、いつも泊まってて…」

何かがふつふつとわき上がる

私の服を脱がせようとする彼の手を乱暴に振り払って自分から露天風呂に歩きだす

(どうせここまで来ちゃったし、彼が払うなら満喫してやるっ)

彼は私の後を静かについてきて脱衣場まで来て私が脱ぐのをじっと見ている、まるでお風呂上がりに私を見つめるロキみたいだ

(前にもあったな…)

あの時は結局脱がされてしまって死ぬほど恥ずかしかったので今回は自分でさっさと脱いでタオルをあてながらお風呂場の引き戸に手をかける

彼はまた気づいたら私の後ろ、本当にいつも音もなく背中にピタリとくっついている

「っつ、」

今度は直接肌がまるごとくっついていて心臓が飛び跳ねる

彼は震える私の胸をそっと包んで反対は腰に手を回す、私の首元の血管に鼻を付けて鼓動を確かめるような動作にさらに心臓の動きが速くなる、でもそれに反して身体は動かなくなってしまっている

そんな私を彼は射ぬくような視線でみつめたかと思うと軽々と腰を持ち上げて露天風呂に入っていく

(またなんだかイライラしてる…?)

いつも私がこんな感じなのか、私以外にもこんな感じなのか椅子に私を座らせて優雅に私を洗い始める

まるで私がいつもロキにしているみたいにシャンプーされてしまう

とても洗いなれているみたいでトリートメントまで丁寧にされると気持ちいいけど、同時に何だか気分が勝手に落ちていく

「…そくしたのに」

気付いたときには口にしてしまっていた言葉はなかったことにできない

「?」

「私だけにするって」

男の人なんてヴァンパイアでも嘘つきだ、信用なんかしちゃだめだ

亡くなった彼だって一回浮気をしていた

彼が勢いよく頭にシャワーをかけてトリートメントを洗いながす

「お前だけだ」

「えっ?」

「そもそもお前しかない」

真剣な顔でこっちを見てくる、嘘なんてないように全く瞳を逸らさない

こんなに真剣で綺麗な人を疑ってしまって罪悪感に心がチクチクする

黙った私を勘違いしたのかさらに言葉を続ける

「こうするのも吸血するのもお前にしかしていない」

(そんなに熱っぽい視線で説得しないで)

恥ずかしくて私の方が目線をずらしてしまう、だけど彼は私の顎をつかんで目線さえ逃させてくれない

「いつもは一人で来ていたけど、一度つれて来たかった」

(もうやめて…)

美しい瞳と言葉がどんどん胸の中に入っていく

「ヴァンパイアも温泉とかくるんですね」

「俺達の食事は人間と違って淡白だから、数少ない楽しみのうちの一つだ」

(嘘だぁ、全然淡白な食事の仕方じゃない!!)

「それにここの泉質は傷によく効く」

そういって私の首にある小さな彼が毎月つける痕を撫でる

(気にしてくれてたんだ…)

「今夜は子供達はいないし、明日は休みだろ?」

何だか怖くて聞けないけど、

(いつもなんで知ってるの?)

彼は私のおでこに鼻を近づけて匂いをかいだら、温泉に私を抱えて入る

いつものように後ろから彼は私を抱きかかえて次は首元の匂いをかいでいる

とても機嫌が良さそう、でも何を考えているかは相変わらず分からない

「…はいらない」

「えっ?」

とても小声で呟くから聞き取れなかった

「時間はたっぷりあるから分からせてやる」

今度ははっきり宣言されてしまったー


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