バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー
彼女は気付かない、どれだけ男を惑わせているのかー
聞き捨てならない会話が彼女の豊かな唇から発せられている
「ーそう、先輩に食事に誘われたの」
とても嬉しそうな黄色い声で話している
「あなたは相変わらず先輩大好きね~」
電話の先は母親のようだ
「だから来週の夜二人とも預かってほしいの、たぶん盛り上がるだろうし次の日は休みだからそのまま泊めといてもらっていい?」
「この不良娘が~!
おとーさん来週子供達が来るって~、ゆっくりしてらっしゃい」
電話先の母親は彼女をたしなめるのかと思えば、逆に労う
最後の砦に期待を裏切られては、自分で行動するしかない
約束の日、彼女の後をつけると一軒の店へ入っていく
彼女が店に入ったのを確認すると、俺は適当な人間をつかまえてそこへ入る
彼女の向かいに座るのは小柄で利発そうな例女だ、例の先輩は女で一安心かと思いきや
彼女の後ろの席のやつ、酔っていてわざと彼女に椅子や肘をぶつけている
でも、彼女は会話に夢中なのか一切そんなことは気にしない、鈍感だ
よほど先輩とやらに気を許しているのかいつもよりも隙があり柔らかな空気を醸し出している
後ろのやつが肘までぶつけてきて、さらに携帯を落とした、でも彼女は気付かない、鈍すぎるがそれでいい
(話しかけたら消す…)
そろそろ彼女が店を出そうなので先に出ようとするが、先程捕まえた女が席を立とうとしないのでトイレに行くふりをして会計だけ済ませて彼女の後を追う
すると先ほど彼女にしつこく椅子をぶつけていたやつが彼女の後をつけている
このままなきものにしてしまおうかと思ったが、それよりいい方法を思い付いた
(彼女はオレのものだ…)
見せつけるように、でもそいつの目にも触れさせたくないからいつものように後ろから抱きすくめる
そのまま彼女に気付かれないようにやつの方を睨めばそこら辺にいた動物や虫共々と本能で逃げていく
「今日は呼んでませんけど」
「遅いから迎えにきた、夜道は危ない」
(本当は今夜は姿を現すつもりはなかったが…)
「まだ9時前ですよ、大人なんだからなんなら今からが本番の時間ですよ」
彼女の香りをかいでいるとこのまま離れたくなくなる、それにあの店でついた臭いを全て取り払って俺のにおいをつけたい
「そうか…」
俺はもう彼女の匂いに酔っていたから、今夜は彼女を帰さないことにした