キミが笑ってくれるなら、それだけで…
キミへの気持ち、そして決別
長かった梅雨も明けて

湿気から解放された7月…

今度は夏の暑さが到来して

夏服になって剥き出しになった肌を

容赦なく照り付ける太陽に

元々暑さに弱い私はヘロヘロ

状態で登校した。

「暑い…」

机に倒れこむ私と違って

運動部に所属している3人は

暑さには強いみたいで

ケロっとしてて…正直羨ましい。

夏休み前に席替えをした私達クラス…

嬉しかったのは3人がすぐ近くに

なったこと。

私の席は窓際の後ろから2番目で

風花ちゃんは私の後ろ、風花ちゃんの

隣は羽柴くんでその前の席は

日下部くん。

こんな奇跡みたいなこと起きるんだと

心の中で感動していた。

今までは誰が近くてもどうでも

いいって思ってたけど

今は3人が傍に居てくれて

嬉しいと思ってる自分がいる。

人って変わるもんだなって思った。

ソワソワする私の背中を

ちょんちょんしてきた風花ちゃんを

振り返ると

「近くになれて良かったよね!

めちゃくちゃ嬉しいんだー!」と

白い歯を見せて笑った。

可愛いな、風花ちゃん…

嬉しい気持ちを込めて

「私も風花ちゃんと近くになれて

すごく嬉しい…

ずっとこの席がいいな…」と

返事をした。

すると、風花ちゃんがふるふると

身体を震わせてるのが分かって

心配になった私は

「大丈夫?体調でも悪いの?」

風花ちゃんの顔を覗き込んでみた。

すると、少しだけ頬も赤くて

熱でもあるんじゃ…とおでこに

手を当てた。

すると

急に小さな手に握られて

びっくりしていると…

「日和の笑顔にやられた…

しかも、ずっとこの席がいいなんて…

可愛い事言うんだもん!

照れるじゃーん!!」

って言いながら

ううー、と悶える風花ちゃん。

やられた?

どういう意味なのかな?

未だうーうー言う風花ちゃんに

私は首を傾げた。

その時、羽柴くんがボソッと呟いた。

「陽人に負けず劣らずの天然だな」

「天然?天然ってなに?」

いつも無表情の羽柴くんが

ぷっと吹き出した。

え?な、なに?

私笑わせるような事言った?

風花ちゃんといい、羽柴くんといい

どうしたんだろう…

人と話すのにブランクがあり過ぎて

会話の内容についていけない…

助けを求めるように

日下部くんを見ると

顔だけじゃなくて首や耳まで真っ赤で

顔を覆う手の隙間から私を見て

「日和、今のヤバイ…可愛すぎ」と

呟きながら机に突っ伏してしまった。

どこがヤバイの?

そもそもヤバイってなに?

可愛いと言われる意味も

全く分からない…

1限目を知らせるチャイムが鳴るまで

私は首を傾げ続けた。

結局分からないまま迎えた昼休み…

3人と一緒に昼食を摂っていると

風花ちゃんが私のお弁当を

覗き込んできた。

「いつも思ってたけど…

日和のお弁当めちゃくちゃ

美味しそう…

一口貰ってもいい?」

「そうかな?

普通だと思うけど…

風花ちゃんの口に合うかは

分からないけど」

私がお弁当を差し出すと

出し巻き卵を掴んで

パクっと一口…

すると目をパチパチさせて

次の瞬間

「何これ!?

めちゃくちゃ美味しいー!

こんなの食べたら他のなんて

食べれないっ!!

毎日食べたいくらいだよー」と

もう一欠片の出し巻き卵を

ジッと見つめる風花ちゃん。

ふふ、そんなに喜んでくれるなんて

嬉しいな…

私はもう1度お弁当を差し出した。

「良かったら、残りも食べて?

美味しいって言ってくれたお礼!」

すると、手を伸ばした風花ちゃんの

手を掴んで止めたのは日下部くん。

突然の行動に私は見つめることしか

出来なくて。

「風花ばっかずりー!

日和、これ俺も食べたい!!」

頬を膨らませながら風花ちゃんと

私の!俺の!と言い合いに

発展してしまって

思わず考えなしに

口を突いて出たのは…

「日下部くんには明日作ってくるから

これは風花ちゃんに…」

そんな言葉だった。

その言葉に固まる2人…

あ…また変なこと言ったかも。

どうしよう…

すると、日下部くんは

キラキラした目で私を見つめて

「それって、俺専用ってこと?」と

問い詰められた私は驚きながら

うん、と頷いた。

それを聞いて日下部くんは

何故か拳を突き上げて

ニコニコ笑顔だ。

そんなに出し巻き卵好きなのかな?

運動部だし沢山あった方が

いいかも…

「どれくらいあったら足りる?

あ、でも出し巻き卵だらけじゃ

お腹膨らまないよね…

他に好きなおかずあれば

それも入れてこようか?」

今しがたニコニコ笑顔だった

日下部くんが私を見て固まって

お箸を落とした。

「あ、あの、日下部くん…お箸」

私の声に動いて見せた日下部くんは

顔を赤くして…

「日和が作ってくれるなら

なんでもいいっ!!

…でも、俺の分作るの…

大変じゃない?」と、

眉を下げて困った表情。

「ううん、大変じゃないよ?

1人分も2人分も手間は

変わらないから。

あ、でも日下部くんお弁当持参だし

さすがに2つは食べ切れないんじゃ…」

「そんなことない!

俺身体大きいから、人の倍は

食わねーと体力持たないんだよ。

でも、ほんとに頼んでいいのか?」

そうなんだ…

やっぱり身体が大きいと

パワー出ないものなんだね。

私は風花ちゃんよりは背が高いけど

特別高いわけでもない158センチ。

だから大きい人のそういう

大変さが分からなかったけど…

やっぱりそうなんだと納得した。

「うん、大丈夫だよ。

あ、でもお弁当箱私の分しかない…」

私1人暮らしだしな…

新しいの買う?

考え込む私に

「じゃあ、今日のこの弁当箱

洗って渡すから

これに入れてくんない?」と

空のお弁当箱を持ち上げた。

「え、でもお母さんに怒られない?

安物になるけど、私が用意しようか?」

「平気!平気!

ウチには弟もいるから

弁当箱の1つや2つ減っても

大したことないから!」

そして、綺麗に洗われた

お弁当箱を渡された私は

明日のお弁当の中身を考えた。

誰かにお弁当作るなんて

何年振りだろう?

美味しくなるように

頑張らないと!

知らずに笑っている私を

日下部くんが見ていたなんて

私は全く気が付かなかった。


























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